今回の更新ではKの小技はちょっとお休み、その代わりに現在九州国立博物館で開催されている特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が見た世界~」に行ってきたので、その内容をレポートしたいと思います。
展覧会名 | 特別展「世界遺産 ラスコー展 ~クロマニョン人が見た世界~」 |
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会場 | 九州国立博物館 3階特別展示室 |
会期 | 2017(平成29)年7月11日(火)~9月3日(日) |
■「ラスコー展」とは
「ラスコー展」は、世界遺産のラスコー洞窟に関して、2万年前に描かれた洞窟内の壁画や出土品にまつわる展示物を公開している国際的な巡回展です。日本では東京展、宮城展に続いて福岡展での開催となっています。
ラスコー洞窟はフランスの南西部に位置し、今から2万年前(後期旧石器時代、日本では縄文時代の始まりが1万6000年前)に人類の祖先であるクロマニョン人が洞窟の壁面に多くの壁画を描いたとされています。
ラスコー洞窟よりも古い壁画はヨーロッパ各地で見つかっていますが、ラスコー洞窟の壁画は保存状態が良く、色彩が豊かであることが特徴として挙げられ、洞窟内には600〜850頭もの動物と、様々な記号が描かれています。
現在開催されている九州国立博物館での「ラスコー展」では、ラスコー洞窟内壁画の実物大レプリカ(ラスコー3)や、壁画を描くのに使用されたとされるランプや顔料、彫刻刀などの出土品、その他に壁画を描いたクロマニョン人に関する多くの資料が展示されています。
■ ラスコー3(精密実物大レプリカ)
「ラスコー展」の目玉の一つ、それがラスコー洞窟内の壁画の一部を精密に再現した展示、ラスコー3です。
現在、本物のラスコー洞窟は一般への公開が禁止されています。1940年の洞窟発見以後、見学者が殺到したことによって壁画の劣化が進んだからです。
洞窟の閉鎖後、主に手作業による測量と模写によって最初の再現壁画(ラスコー2)が制作され、1983年から公開されています。
現在福岡で公開されている「ラスコー展」のラスコー3は、国際的な巡回展に合わせて遠隔地での展示用に制作された再現展示です。
ラスコー3は実物壁画の3次元レーザースキャンによる測量、ポリマー素材による壁画の鋳造、壁画が描かれた旧石器時代とほぼ同じ顔料や土を用いた色彩、そしてデジタルマッピング技術による正確な配置と腕利きアーティストたちによる手作業で、ラスコー洞窟の壁画をこと細やかに再現しています。
以下に実際にyamakeiが会場で撮影したラスコー3の写真を交えながらお伝えしたいと思います。
(「ラスコー展」では一部の展示物が撮影可能となっています。)
ラスコー3の壁面。波打つ岩肌の凹凸がリアルに再現され、その壁面の誤差は1mm以下の精度だそうです。
2頭のバイソンが背中合わせに描かれた大きさ2.4mの壁画。yamakeiはラスコー3の再現壁画の中でも一番力強く描かれているように感じました。
左のバイソンの背中の一部が赤く塗られているのは冬から春にかけて生え変わった毛を表しているそうです。
一度左向きに描かれたウマの群れの上から大きさ2.15mの黒い牝ウシが右向きに描かれています。
壁画は輪郭線を岩肌に刻み、ウシの体は黒く、ウマの体は茶色に境界線でキレイに塗り分けられています。壁画を描いた人物の「動物をどのように表現しようか」という工夫の跡や確かな意図を感じました。
またラスコー3の展示では一定時間が経過すると照明が切り替わり、壁画の輪郭線がライトアップされて青く浮き上がる展示演出が為されていました。
その他にも展示物の支持体や装飾、照明やピクトグラムなど、こういった展示会での空間の作り方は、少し意識して観察するだけで開催側の様々な配慮や工夫が見えてくるので、デザインのお仕事をする上でとても勉強になっています。
写真:九州国立博物館「ラスコー展」 ラスコー3 支持体、装飾、ピクトグラム(撮影可能エリア)、yamakei撮影
■ クロマニョン人がみた動物たち(福岡のみ展示)
九州国立博物館の「ラスコー展」では、福岡会場のみの展示物が20点ほど展示されています。
その中でも撮影が可能だったエリアから、ラスコー洞窟の壁画を描いたクロマニョン人たちと同時期に生息していた動物たちに関する展示を紹介したいと思います。
クロマニョン人と同時期に生息していた大型のシカ。アイリッシュエルク、ギガンテウスオオツノシカとも。
その大きさ以外は現在のシカとそこまで違わないような印象を受けました。ラスコー洞窟の壁画にはこの種類のシカは描かれていないそうですが、左右対称で曲線を描く大きな角が美しいです。
クロマニョン人と同時期にユーラシア大陸に生息していたサイの一種。毛サイ、毛深サイとも。
こちらの展示はレプリカですがオオツノジカの頭蓋骨よりも力強く荒々しい印象を受けました。
氷河期の動物の代名詞、マンモス。
会場には写真のものとは別のマンモスの牙も展示され、そちらの牙は実際に触ることができます。
私が触った感想としては、よく乾いた硬質の木材といった印象でした。表面に細かい凹凸があるが滑らかな部分は艶っぽくもあり、硬く身の詰まった感じはするがその割には軽そうで、触れた時には石のような冷たさはなく、じっくり手の平の体温が伝わっていくような感じ。
総じて、家の柱などに使われそうな木の皮を剥いだ後の密度の高い木材、といった感想です。
動物たちに関する展示物の展示風景と大きさ比較の垂幕。
九州国立博物館「ラスコー展」の会期は9月3日(日)まで、興味のある方は足を運んでみてはいかがでしょうか。
■ 4つ目のラスコー 2016年12月オープン
また昨年2016年12月には本物のラスコー洞窟から500mほど離れた場所にモンティニャック・ラスコー国際洞窟壁画芸術センター、通称ラスコー4がオープンしました。
ラスコー4は先端技術を用いてラスコー壁画の全体を忠実に復元し、見て、聴いて、触って、1940年にラスコー洞窟を発見した4人の少年たちの興奮を追体験することができるそうです。
流石にフランスまでは気軽に行くことはできませんが、はるか古代の人の創作物を現代の技術でいかに再現しているのか、とても興味深い施設だと思います。
▼ラスコー4 関連リンク
フランス観光開発機構:モンティニャック=ラスコー国際洞窟壁画芸術センターがオープン
AFP通信(フランス通信社):ラスコー洞窟を忠実に再現、「ラスコー4」がオープン フランス